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数奇草

四畳半に魅せられた理系学生の備忘録

第六夜

 

 赤い水滴が果物ナイフからしたたり落ちている。目の前には首筋から大量の赤い液体をまき散らして倒れている人がいた。その顔は苦悶で醜くゆがんでおり彼の最期の憎しみや悲しみを表しているように感じた。

 ここまでは計画通りだった。ここにくるまでありとあらゆる証拠を残さないようにした。監視カメラの死角を通る、指紋を残さない、考え得る限りのことはした。そして今、最終段階に到達して一番の難題に僕は直面していた。

 この死体をどうするか。

 すぐ裏の山に埋めるという手が真っ先に思い浮かんだが、そこまで運ぶまでに誰にも見つからないという保証はないし、埋めたとして深さが十分ではないとイノシシに掘り起こされる危険性も否めない。かといってこのまま放置したとしても遅かれ早かれ死体が発見され、おそらく一番の容疑者は僕になるだろう。

 彼と僕は顔見知りではないがそれゆえにお互いを憎しみあっていたのだ。

 すると、細かく刻んでゴミ袋に詰めて徐々に捨てていくのが我ながらいい線を行っていると思ったのだが、僕はそれより上をいく素晴らしい案を思いついた。

 細かく刻んで「食べて」しまえばいいのだ。骨から肉をそぎ落とし、骨は砕いて適当なところにまいてしまえばいい。そうすれば何日もかかることなく「死体」という一番の証拠を隠滅することができる。元から彼は頭のおかしい人間なのだ。だから死亡ではなく失踪ならば警察も捜査に乗り気にはならないだろう。少々安易な考えかもしれないがすべての証拠を消すという点ではこれほど魅力的な考えはなかった。唯一目を瞑る点は彼を食べるというのは胸くそ悪いということだけだ。