数奇草

四畳半に魅せられた理系学生の備忘録

第一夜

 

 意気揚々と始めたはずなのに何故僕は昨日のうちに昨日の分をあげられなかったのだろうか。

 じつはこれには深い訳があるのだ。

 昨夜バイトを終えた僕は家に帰って温かいシャワーでも浴びようと考えていた。

 しかし、仲良しのおじさんに夜釣りに誘われ、断るような器量もない僕はのこのことそれについて行ったのだ。

 微かに手元が見えるくらいに街灯でぼんやりと照らされた用水路の脇で釣りをしながらふと空を見上げると北斗七星が見ることができた。星に関しての知識が皆無である僕でも冬の大三角形があることくらい知っていた。シリウスとペテルギウスとリゲルだったと思う。夏の大三角形なら某楽曲のおかげで完璧に憶えているのに。だからあのベルトが特徴的なオリオン座を探したが僕の弱り切った現代っ子の目では見つけることができなかった。夜空の星が見えづらいのは弱視であることの最大の欠点の一つだと思う。

 肝心の釣りはというとこちらもだめで結果はぼうずだった。おじさん曰く夜だとなまずが釣れることがあるらしいがそんな気味の悪い物を夜に釣って何が楽しいのだろうか。

 最後にコンビニによっておごってもらった温かい缶コーヒーがおいしかった。暖かな珈琲がのど元を通ると夜風で冷えた身体に染み渡るのが心地よかった。それを飲みながら僕はいつか温かな缶コーヒーを女の子におごってあげて首筋にそっとあてて驚かせてやりたいと何ら脈絡もないことを考えていた。