数奇草

四畳半に魅せられた理系学生の備忘録

第十三夜

 

 僕がぷかぷか浮かぶ雲を眺めていると話しかけてきた人がいた。その人はあまりに暇すぎて時間つぶしにでもと釣りに来ていたらしい。そう、僕はちょうど橋のたもとあたりで雲を眺めていたのである。

 

 その人(仮にAさんとする)は昼間は街の中をパトロールする正義の味方で夜は何億という資産をやりくりする重要な役職に従事しているらしい。いたって平凡な脳みそしか持ち合わせていない僕はそれがどのようなものか想像することもできず、へぇそうなんですかという気のない返事しかできなかった。

 しかし、Aさんはそんな僕を見ても全く気分を害することもなく高らかに笑いながら今までの自分の武勇伝を僕に話して聞かせた。やはり僕なんかと住む世界が違う人は器のでかさがちがうのだな。と僕は思った。

 Aさんの語るお話は実に興味深い物だった。僕の文章力がそれを100%表現できるくらいあったら是非皆さんにも教えたいのだが、残念ながら僕の力では10%も伝えられそうにない。本当に申し訳ない。

 最後にAさんは魚が全く入っていないバケツを片手に、まぁ君は若いからこれから色々とあるけどあきらめるにはまだはやいよ。と言い残して去って行った。やはり大物は言うことが違う。よれよれのシャツを着て、ぼろぼろのジーンズをはいている外見からは全く想像もできない豊かな人間性だった。外見で人を判断するというのは実に愚かと言うことがわかった。